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企業でも活かせる犯罪心理学

十数年前,私は犯罪心理学のあるテーマについて研究する修士課程の大学院生の一人でした。就職活動をする時期になり,興味のあった警察などの心理職の採用試験を受験しましたが,不合格通知を受ける日々が続きました。当時はひどく落ち込みましたが,大学院修了後の生活を考え,内定をいただいた一般企業に就職することにしました。

入社した当初は,「企業では犯罪心理学は役に立たないのでは?」と思っていました。しかし,色々な業務を経験させてもらう中で,企業においても犯罪や迷惑行為に対する対応が重要な問題となっていることに気づきました。例えば,「カスタマーハラスメント」と呼ばれる,お客様からの悪質なクレームが,企業を悩ましています。常識的なクレームは,企業の製品やサービスを向上させるうえでの貴重なお客さまの声となります。しかし,悪質なクレームは,場合によっては犯罪 (例:恐喝罪,脅迫罪,暴行罪) や迷惑行為 (都道府県迷惑防止条例) に該当する可能性があるだけでなく,企業の担当者に強いストレスを与えるリスクもあります。現在,多くの企業では,悪質クレーム対応の体制,手順や教育を検討しています。検討を進めるに当たり,実際に現場で起きている悪質クレームを丁寧に観察し,その特徴について分析を行ったうえで議論することが重要となります。その際,犯罪心理学は,犯罪や迷惑行為に関わる人の心理や行動に関するこれまでの研究の蓄積から,悪質クレームの分析に対して様々な有益な視点 (例:性別,年齢,行動パターン) を提供してくれることでしょう。

企業が直面する犯罪や迷惑行為は他にも多数あります (例:サイバー犯罪,万引き,不正な保険金請求)。警察と連携しながら,犯罪や迷惑行為に企業が適切に対応することは,お客様,取引先,従業員とその家族,株主や企業自体の安心と安全を守ることに繋がります。私と同じように,学生時代に犯罪心理学に興味を持ったものの,企業で働くという選択をした人たちも多いと思います。改めて犯罪心理学の参考書を読み直していただくと,ご自身の仕事に活かせる犯罪心理学のテーマが見つかるかもしれません。
(入山 茂)

参考文献
桐生 正幸・入山 茂 (2020). クレーマー的行為の心理学―「ありがとうWAY」における活用方法 天野 泰守 (監) 日本対応進化研究会 (編) グレークレームを“ありがとう!”に変える応対術 日経BP 日本経済新聞出版, 178-184.

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