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私の「非行・犯罪臨床」

このコラムが掲載される頃に,新型コロナウイルス問題はどのように「収束」(「終息」は使いたくない)しているのでしょうか。ウイルスをうつされた「被害者」,うつした「加害者」が表裏一体である点は,非行・犯罪臨床と類似の関係性があるように思えます。どちらも不幸・理不尽の極みであって,被害者・加害者双方への支援が不可欠な問題です。私自身も,社会内処遇である保護観察という加害者臨床に20年余り従事し,大学院の教員となってからは,ある県の「被害者支援センター」の役員を務めています。

ところで,私は,「非行・犯罪心理学」という用語の代わりに「非行・犯罪臨床」を多用しています。私が創出した用語ではありませんが,「どうして非行・犯罪に陥ったのか」という原因論よりも,「どうすれは非行・犯罪から立ち直れるか」という支援論に関心があるのです。統計的な手法で非行・犯罪原因を究明するよりは,立ち直りの道筋を当事者や支援者の「語り」によって具現化するお手伝いに注力しています。

国家資格である「公認心理師」の活躍が期待されている領域として,司法・犯罪分野が明示されたことは喜ばしく,私もその養成カリキュラムに尽力しています。薬物乱用やギャンブル・ゲーム依存,そして,ストーカーやDV,虐待など治療的動機付けが乏しい支援対象への心理・社会的援助が,社会の耳目を集めている今だからこそ,本学会の使命である,司法・犯罪領域の心理的支援の臨床経験の集積,そして伝達が大きな課題です。

保護観察官時代から傾注してきたのが,「立ち直りの手立てとしての家族」という視点にたつシステムズ・アプローチです。個人技ではなく,組織的取り組みとしてアプローチするのが,非行・犯罪臨床機関の特質です。ただし,公的機関の宿命か,各専門機関の関与できる法定期間や権能が限定されており,それらをつなぐケースマネジメントの役割を担う機能や職務の整備が不十分であることが指摘されています。

わが国でも,立ち直り支援を中核とする「forensic:刑事司法にかかわる」総合的な心理学,それに基づく心理支援の確立・展開が求められており,その人材を養成するための一助になることが,学会,そして,私の責務です。(生島 浩)

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