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再会

犯罪心理学という学問を背景とする実務は様々ある。文字通り、「犯罪」が行われた後、事件の解決と同時に加害者が明確になり、加害者の何割かは矯正施設に収容される。長い間、非行犯罪臨床の場である刑務所や少年鑑別所に勤務し、非行少年や犯罪者と関わることを生業としてきた筆者の習性だろうか、彼らに対して「今頃、どうしているだろう。」、「悪さはしていないか。」、さらには「会ってみたいな。」という思いが今でも頭をかすめることがある。査定だけでなく、教育・治療的関わりの中で接した相手なら尚更である。こうした心情になるのは、入所から出所までの間、彼らの日常生活の世話や指導をする刑務官や法務教官にも少なくない。施設内で彼らの問題点や課題が少しずつ軽減され変化していく姿に接した体験や記憶が、そうさせているように思われる。

大阪下町を舞台にした昭和の漫画で「じゃりン子チエ」(詳しくはSNSで検索願いたい)というのがある。小学5年の女の子が主人公であるが、その父親テツが鑑別所に収容されたときの仲間と同窓会をするという話がある。当時の所長まで参加している。同窓会場では、集まった元非行少年たちが所長を交えて再会を喜び、鑑別所での生活を昔の話として楽しそうに語らっている。あくまでも漫画の話であり時代も違うが、筆者もそこに加わりたい衝動に駆られる。漫画を引き合いに出すのは不謹慎であるし、非行犯罪は簡単に償えるものではないとお叱りを受けるかもしれない。ただ、非行や犯罪と無縁な生活を送っている今の様子を本人の口から聞いてみたいのも正直な気持ちである。

現実的には、矯正施設の職員が彼らと社会で再会することはほとんどない。あるとすれば彼らが再犯(中には3回4回と)をして矯正施設に入所した時である。非行犯罪者の立ち直りに関わるとき、感情を揺さぶられつつも、冷静かつ客観的な視点で彼らを受け止める必要性を痛感する瞬間でもある。現在少年院では、退院した「元在院者」やその保護者からの希望があれば、一定の条件の下で少年院の職員が相談に応じている。社会生活で何かしらの問題に直面しているであろう状況下での再会でも、彼らを再び全力で支援することになろう。その後、施設内での再会とならないために。(寺﨑武彦)

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