MENU
CLOSE

コラム

  1. TOP
  2. コラム

コラム

非行臨床の現場を離れて

私が非行臨床の現場を離れて、今年で8年目となる。それまで家庭裁判所調査官として勤務してきた28年間のうち、24年間、少年事件を担当してきた。私が非行臨床を目指したのは、少年たちの中に自分の姿を見たからだろう。私にとって非行少年は、家族の犠牲者であり、発達の過程でつまずいた子どもたちであった。彼らがそのことに気づき、それを克服することで、社会の中で自分らしい生き方をできるようになることを支援することが、私の仕事の目的だった。

もちろん、実際には、上手くいかないことの方が多く、担当した少年が再犯をくり返し、落ち込むことも多かった。その度に自分の力の無さを痛感し、どうすれば少年たちの力になれるかを考えた。多くの試験観察を行ない、週1回少年や保護者と面接し、少しでも少年の心に触れることができるように努めた。失敗も多く、悩むことの方が多かったが、情熱はあった。何とかしたくて心理面接の訓練を受け、少しずつ少年と関係を築くことができるようになり、次第に少年が再犯をしなくなり、成長していく過程に立ち会うことができるようになった。今思えば、どこまで少年たちの力になれたのかはわからないが、手応えは感じられるようになっていた。

そんな私が非行臨床の現場を離れたのは、より深く心理療法を学び、実践したいというわがままな理由からだった。しかし、実際に非行臨床の現場を離れて、より深く心理療法を学び、実践するようになると、改めて非行少年たちに対しても、このような彼らの心により深く触れるアプローチが必要だったのではないかと思うことが多い。もちろん、実際に彼らに関わっている専門家たちには、様々な現実的な制約があり、そのような面接を行なうことは難しいかもしれない。また、少年たちも抵抗が強く、心に触れるのには長い時間が必要なことも少なくないであろう。しかし、彼らの抱えている問題が大きければ大きいほど、そのようなアプローチが必要なのではないだろうか。非行臨床の現場を離れた自分に、そのために何ができるのか考えるこの頃である。(室城隆之)

PAGE TOP