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What Works? ―研究によって発展する犯罪者処遇―

最近,様々な場面でエビデンス(科学的根拠)という言葉を聞くようになりました。犯罪者処遇においても,犯罪者を懲らしめるだけではなく,改善更生させ,社会復帰につなげることに関心が向けられる中でエビデンスが重視されるようになっており,犯罪心理学分野における研究の重要性が年々高まっています。

ただし,統計や数値には誤解釈のリスクが伴います。例えば,「アメリカの90%以上の犯罪者がパンを食べたことがある。」という研究結果が仮にあったとして,「そういう食文化だからそういう結果になるよね。」と解釈するか,「パンは危険な食べ物だ。」と解釈するかによって,研究結果の意味は変わってきます。この誤解釈が犯罪者処遇の文脈で生じたらどうなるでしょうか。実際,1970年代のアメリカにおいて,犯罪者処遇プログラムには効果がないとの研究報告が次々と発表され,”Nothing Works”(効果的なプログラムはない)という悲観論が高まって,社会全体が処遇プログラムの実施に消極的になるという事態が生じました。その後,研究法や技術の発展に伴って,実は”Some Works”(効果的なプログラムもある)が明らかになり,再び処遇プログラムに社会的関心が寄せられるようになったのですが,この例からは,犯罪者処遇の分野において,研究のやり方や結果の解釈がいかに重要かがよく分かります。

さらに,海外では近年,より効果的なプログラムを求めて,”What Works”(どのようなプログラムが(誰に対して)効果的なのか)という視点で様々な研究が行われています。確かに,犯罪者処遇と言っても目的や内容は多岐にわたり,再犯防止に効果的な処遇もあれば,中には再犯防止に効果的でないけれど改善意欲の向上に適した処遇もあります。また,犯罪者という集団は,実は多様な特性を持つサブグループで構成されていることから,同じ処遇を行っても,奏功する者と奏功しない者がいるのは当然でしょう。エビデンスに基づく犯罪者処遇を発展させるためには,処遇の効果がある部分を明らかにし,より効果的にするための改善点を見つける”What Works”の視点を持って研究に取り組む必要があるのです。

刑務所等に収容された犯罪者の多くは,いつか社会に戻ってきます。そして,犯罪心理学研究の発展は,犯罪者の改善更生,ひいては皆が安心・安全に暮らせる社会につながります。私の地道な勉強や研究もいつか人の役に立てば良いなあと願ってやみません。(大江由香)

 

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