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「心理的距離」について思うこと

「ラポール」という言葉は,相互の信頼関係や情緒的なつながりをあらわす語句として幅広く用いられています。警察の捜査でも,様々な場面で事件関係者と警察官の間のラポールの重要性が指摘されています。しかしながら,捜査において,どのように,またどの程度,相手とのラポールを構築するかは難しい問題です。

たとえば,人質交渉では,交渉官が犯人の語りを傾聴することで,犯人が犯行に至った背景などの理解に努め,「ラポール」を形成することが求められます。また,児童や障害を有する方などから事件等について聴取するための技法の一つにNICHDプロトコルがあります。その手続きでは,本題について話してもらう前に,何をするのが好きかなどを尋ねます。これは,相手に安心して話してもらう場とすることが主目的で,「ラポール形成」と命名されています。しかし,いずれも,相手の心情への配慮が大切なのは勿論ですが,継続的な親密な関係を構築することは求められていません。仲(2010)は,NICHDプロトコルにおける面接者と被面接者の関係性について,「暖かいが,中立,たんたんと」と述べています。

「暖かく」「たんたんと」という異なる態度を共存することは,対象と「適度な」距離感を保つことでもあります。そして,「暖かく」「たんたんと」ではないにせよ,対象との距離感を意識することは,臨床現場の先生方が大切にしていらっしゃることでもあると思います。Rogers (1957)は,共感的理解について,クライエントの私的世界を自分自身の世界であるかのように感じとり,しかも「あたかも…のごとく」という性質をけっして失わないことであると述べています。また,精神科医のSullivan, H. S.の著名な言葉に,「関与しながらの観察」という言葉があります(Sullivan, 1954)。いずれも,関係が深くなったとしても,「私」と「あなた」は混在しない,すなわち長短では測りきれない心理的距離があることをあらわしているように思います。結局,どのような職務であれ,「専門家」として対象に関わることが求められる限り,その有り様は違えど,相手との距離感を意識することが求められるように思います。

犯罪を研究する上でも,対象と自身の間の心理的距離を意識することは,時に重要だと感じます。研究では,対象への深い理解に努める一方で,中立的な視点を維持する姿勢を大切にしたいと思います。(横田賀英子)

文献
仲 真紀子 (2010). 北 大 司 法 面 接 ガ イ ド ラ イ ン https://forensic-interviews.jp/_obj/_modrewrite/doc/fi-20220922_276_2.pdf

Rogers, C. R. (1957). The necessary and sufficient conditions of therapeutic personality change. Journal of Consulting Psychology, 21(2), 95-103. (カーシェンバウム, H.・ヘンダーソン, V. L.(編)伊藤 博・村山 正治(監訳) (2001). ロジャーズ選集(上)カウンセラーなら一度は読んでおきたい厳選33論文 誠信書房 pp265-285)

Sullivan, H. S. (1954). The psychiatric interview. New York: W. W. Norton & Company Inc.. (中井 久夫・松川 周悟・秋山 剛・宮崎 隆吉・野口 昌也・山口 直彦(訳)(1986). 精神医学的面接 みすず書房)

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