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家庭内の暴力加害者へのアプローチ

各種統計資料を見ると,わが国の刑法犯の認知件数はここ数年減少しているのに,児童虐待,配偶者間の暴力(以下DV)の相談件数は,増加していることがわかる。新型コロナの感染防止対策の一環として自宅に滞在する時間が増えたことで児童虐待やDVは増加していると指摘する専門家がいる。最も基本的な愛情関係が育まれている関係性の中で生じる暴力をなくそうとする方針に,異論を差しはさむ人はいないだろう。

児童虐待やDVの被害者については,保護と回復の支援を,それぞれ,児童相談所,配偶者暴力相談支援センターが担うことが制度化されている。被害者の保護と支援は重要であるが,それに加えて,加害者への対応が十分になされなければ,痛ましい家庭内の暴力事件は減らない。実は,加害者については,どの機関でどのような指導をすべきかという方針は定まっていない。

さて,沖縄県では,更生保護施設(少年院や刑務所から出てきた人で身元引受先がない人が一時的に生活する施設)に設置されたDV加害者更生相談室で,DV加害者に対する更生支援を行っている。私は,その相談室の発足当初から,相談員を務めている。強制力のないDV加害者の相談室にどれくらいの相談があるかという当初の心配は,杞憂であった。

来談者の大半は,自らのDV行為をなくすために必要な考え方や行動様式を学ぼうという真摯な態度を持っている。しかし,中には,自分の暴力的な言動は,「教育・躾の一環」であり,その行為は正当なものであると主張する来談者がいた。また,自分は暴力を振るったことを反省していると,妻や家族に証明して欲しいと要求する相談者もいた。

どのような主張をしても,家族に対する暴力行為をしてきたことには間違いがない。加害者に理解して欲しいのは,「非暴力」の態度なのである。

加害者への対応は,一般に,叱責や説諭が中心となりやすいと考えられているだろう。叱責や説諭は,方法にもよるだろうが,暴力的な要素を含みやすい。暴力を振るった人に対して暴力的な要素を含んだ叱責や説諭で応じることは,結局「暴力の肯定」につながる。そこで私は,話しやすい雰囲気の中で,加害者がどうしてDVを行ったのか,その心理的背景をしっかり言語化してもらい,それを傾聴するというカウンセリングの基本に忠実な面接を心がけている。同時に,犯罪心理学で学んだことを活用しながら,少しでもDV加害行動が減少する一助となりたいと奮闘している。(田中寛二)

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