コラム
「闇バイト」に堕ちる若者たち
連日、「闇バイト」に関連した強盗や詐欺事件が世間を騒がせている。実行役として逮捕される者の多くは、いわゆる職業的犯罪者ではなく、どこにでもいそうな若者である。社会に衝撃を与えるこれらの問題に、「近頃の若者は道徳心が低下している」、「想像力が足りない」などの精神論で片付けるのは容易だが、それでは根本的な解決には至らない。なぜ、彼らは闇バイトに堕ちるのか。そのプロセスを心理学の視点から考察したい。
まず、彼らが犯罪に手を染める入り口には、巧妙な心理的罠と認知の偏りが存在する。おそらく、最初から強盗をするつもりで応募する者は稀だろう。「荷物を運ぶだけ」、「ホワイト案件」などの言葉で心理的ハードルを下げる手口は、社会心理学で言うフット・イン・ザ・ドア・テクニックの悪用に他ならない。加えて、若者特有の正常性バイアス(「自分だけは大丈夫」)や根拠のない楽観主義(「捕まっても重罪にはならない」)による甘い見通しがリスク評価を麻痺させ、安易な行動へと駆り立てる。
一度、個人情報を握られると、状況は一変する。「逃げれば家族に危害を加える」という脅迫は極度の恐怖を与え、視野狭窄を引き起こす。冷静な判断ができなくなり、警察に相談するという選択肢が意識から消え失せる。また、犯行時の心理にも特徴がある。彼らは、しばしば中和の技術を無意識に用いて自己を正当化する。「自分は指示されただけ」と責任転嫁することで良心の呵責を遮断し、凶悪な犯行へと堕ちていく。
それでは、これらの犯行を防ぐにはどうすればよいか。単に厳罰で恐怖を植え付けたり、精神論で反省を迫ったりするだけでは、彼らの根底にある認知の偏りまでは修正できない。今、科学者に求められているのは、「なぜ、彼らはブレーキを踏めなかったのか」という事実を科学的に解明することである。「闇バイト」は、SNSの普及や経済状況の変化が絡み合った現代特有の現象であり、過去のデータや理論がそのまま通用するとは限らない。そうであれば、司法に関わる機関が連携し、新たなエビデンスを創出する必要がある。各現場のデータを統合的に分析することで、どのような者に、どのタイミングで、どんな情報を届ければ被害(加害)を防げるのか、日本独自の有効な介入策が見えてくる。感情論ではなく、Evidence Based Practiceを実践していくことこそ、次なる悲劇を防ぐ唯一の道である。(荒井 崇史)






