コラム
名誉会員のご推戴をいただき
令和7年度総会において名誉会員推戴という栄誉を頂きました。広報担当常任理事より所感のご依頼がありましたので、これまでの学会経験の中から特に印象深い出来事として、2011年に神戸国際会議場で開催された国際犯罪学会第16回世界大会のことを書かせていただこうと思います。記憶に過誤があるところがあるかもしれませんが、それについてはご容赦いただきたいと思います。
私が名誉会員にご推戴いただいた理由の一つに、本学会の会長を務めたということがあったものと思います。国際犯罪学会の世界大会は、その任期中最大の事業でした。しかし、2011年と言えば、東日本大震災が発生し、誘発された原発事故のため、一時はこの大会の開催も危ぶまれました。偶々、この時私は東北大学で学部長職にあり、被災大学としての対応に追われていました。新学期の開始を5月の連休明けに遅らせるなど、何もかも異例づくめの学部運営に翻弄され、第1学期を何とか終えたお盆過ぎ、ようやく「ほっと」肩の力を抜くことができたことを覚えています。それは、いつ桜の花が咲き、いつ散ったのかまったく気づかないうちに過ぎた目の回るような半年間でした。私だけではなく、多くの犯心会員が震災対応に追われていた中で迎えた世界大会だったのです。
この年は、世界大会の期間中、同じ会場で犯心第49回大会を並行して開催することになりました。二つの学会大会を同時開催するというこの年の事業には、文字通り、犯心会員総出でこれに取り組んだと言えます。過酷と言えるようなスケジュールではありましたが、その中でも、各会員の方々は、来日された高名な海外の研究者たちの報告を直接聞き、その合間に彼らと交流するなど有意義な時間を過ごされたものと思います。私自身にとってもそうだったのですが、それに加えて、私にとっては世界大会の前後の出来事も非常に印象深く、強く記憶に残るものでした。
国際犯罪学会というのは、1938年に創設された学術団体で、各国の研究者や実務家(裁判官、弁護士など)が会員となっています。その世界大会を2011年に日本で開催するにあたり、2008年、犯罪研究に携わる国内7学会(警察政策学会、日本司法福祉学会、日本社会病理学会、日本犯罪学会、日本犯罪社会学会、日本犯罪心理学会、日本被害者学会)が結集して日本犯罪関連学会連合会という組織を作り、これが世界大会の主催団体となりました。私はその中に設置された組織委員会の常任理事として、連合会の発足時から大会終了後、収支決算と報告書作成を行って解散するまで多数回の会合に出席し、他学会の委員の方々との討論に参加してきました。この連合会での数年間の経験は私の研究者としてのキャリアの中でも最もインパクトの強いものでした。
私はそれまで、犯罪研究に関しては多少の知見があると内心自負していましたが、世界大会のために組織されたこの関連学会連合会に参加して、それがいかに管見であったかを痛感させられました。それは犯罪研究の多角性・多相性を改めて目の当たりにしたせいなのですが、それは本や論文など文献を通したものとは違い、他学会の委員の意見の背後に見え隠れする研究価値やデシプリンの違い、概念枠組みやアプローチの違いに由来する多様性でした。例えば、他学会の委員が心理学の理論や研究を引き合いに出すことがありましたが、その使われ方は新鮮で、虚を突かれたような思いをしたことさえありました。
神戸での世界大会が幕を閉じ、連合会がその使命を終えて解散することになったとき、この刺激的な交流が終わってしまうことに寂しささえ感じるようになっていましたが、そう感じていたのは私だけではなかったようでした。関連諸学会が共同で一つの事業に取り組んだこの経験を今後の各学会運営に生かしたいという趣旨で、最後の組織委員会では、連合会に参加した諸学会間で今後も情報交換を行い、必要があれば更なる事業協力を行うために犯罪関連ネットワークというものを発足させました。
その具体的な成果は、2017年に國學院大學で開催された第2回犯罪学合同大会でした(なお、第1回は1994年慶応義塾大学で開催されています)。これは同じ会場で、連合会にも参加していた5学会が各自の年次大会を開催し、合わせて講演会やシンポジウムを共催するというものでした。この時、私は既に犯心の会長職を退いていましたが、他学会の会場を覗き回りながら、犯罪研究の多角性・多相性を楽しみました。多くの犯心会員にとっても、自分の研究の意味を見直し、新しい視点を得るなどの機会となったのではないでしょうか。合同大会は、学会間でのスケジュール調整や会場配分など単独大会にはない多くの作業が必要で、その開催は容易ではありませんが、今後も機会を見てご企画いただくことが犯心会員の利益となるのではないでしょうか。
犯心会長の最も大事な仕事は、年次大会の開催校を依頼することです。私が会長を務めた合計6年間、さらにその前後の期間を含め、年次大会の準備と開催にご尽力いただいた多くの会員の方々、また、世界大会において実行委員として活動頂いた方々に対して、この機会にお礼を申し上げたいと思います。(大渕憲一)






