コラム
学びや成長に必要なものはなにか?
私は普段,大学の教員をしています。少し前の会議では,AIにレポートを書いてもらっていないかどうやって見つけ出すのかが話題の中心でしたが,最近では,AIをどう使いこなすかを教えようという話になってきました。例えばAIに研究テーマを考えてもらおうとしても独創的なことは言ってくれませんよ,とか,時々存在しない文献を表示してくることがありますよ,などということを1年生のうちに教えようというように,です。そのほかにも,コロナ禍を経て,授業の資料はデジタル化されそれぞれでダウンロードすることが普通になり,ゼミと呼ばれる少人数の授業での発表も,みんなPCを見つめながら話を聴き,目線の合わないディスカッションも多くなりました。
話は少し変わりますが,デジタル教科書をいち早く導入したフィンランドでは,世界一と言われた学力が低下したことを受け,2023年から教科書を紙に戻し,鉛筆やペンを使う方針に転換しました。もちろん学力低下の理由は指導体制の変化など他にも指摘されているうえ,学力の定義は何かという疑問もありますが,ここではデジタルツールを使った学びでは提供できないもの,もしくは学びの足を引っ張る要素があると判断されたことに着目しています。
2025年6月から,従来の懲役刑・禁錮刑と呼ばれるものが廃止され,拘禁刑になる話は知っているでしょうか(https://www.moj.go.jp/content/001437235.pdf)。細かい話は法務省のホームページ等を見てもらえればと思いますが,大きな特徴として,個々の受刑者の特性に応じた働きかけをすることや,指導と呼ばれる改善更生のための働きかけの時間や種類が増えることが挙げられます。その取り組みの中では,職員と対等な立場で話をする対話(アナログな,目線の合う方法です)も推進される一方で,パソコンを使ってスキルトレーニングをするなどのデジタル手法を使った試みなどもなされるようです。海外の実践家の発表でVRを使って対人スキルのトレーニングをする介入も聞いたことがありますが,そんなものもいずれは取り入れられるかもしれません。
どちらが良い,どちらが悪いと言いたいわけではありません。日常生活や学校教育だけではなく,加害をした人への働きかけについても,流行りや効率だけに流されず慎重に考え,見極めて導入するという姿勢が求められているように思います。みなさんは加害をした人の学びにはどんな方法が効果的だと思いますか?(毛利真弓)