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サイコパスとは? ―卒論指導の中で―

 大学も新学期が始まりました。フレッシュな1年生が入学してきて、キャンパスも賑わい、食堂も購買も満員御礼状態で、いつもこの時期は、1年の中でも熱気というか、新鮮な活気が感じられる時期です。ついこの間、卒業生を送り出したと思ったら、程なくして、雰囲気ががらりとかわるというのを、毎年経験しています。送り出した卒業生は今頃、新社会人として懸命に働いているのでしょう。束の間の春休みを挟んで、すぐの代替わりです。

本学の心理学科では、卒業生は必ず卒業研究を行い、論文を作成して提出しなければいけません。これが、毎年、学生にとっても、教員にとっても苦労の種というか、一番力の入る行事であり、4年生のゼミの大半は、論文作成に費やされます。小職は、犯罪心理学のゼミを指導していますので、犯罪心理学に興味を持った学生が希望して、所属してくるわけですが、卒業論文のテーマは、犯罪心理学に限られず、多様です。これには、昨今、犯罪者に関するデータを直接に調査することが困難になっているという事情も影響していると思います。犯罪心理学のゼミを希望した学生が、犯罪心理学の研究をしづらいという状況は、若干、悲しいところもありますが、それでも学生が選んできた研究内容ですから、なるべく、学生自身が興味を持ったことを研究できるように指導を心掛けています。

さて、ここで、昨年度の卒業生の研究の一端をご紹介したいと思います。一般的なサイコパスと学術的なサイコパスにおける認識の違いについて分析したものをご紹介します。
我々、犯罪心理学者がサイコパスについて言及するときには、シュナイダーの類型やヘアーのPCL-Rを思い浮かべると思います。一方で、昨今はテレビドラマや映画などでサイコパスが取り上げられたせいで、サイコパスという言葉は一般の人でも耳にしたことがあるでしょう。そこで、一般の人はサイコパスについてどのような認識を持っているのかを調べたものが、この研究です。
調査の結果ですが、まず、「人を殴ったり蹴ったりする人」、「バスや電車の料金をごまかす人」といったようなことをする人が、サイコパスである、と認識している方が一般の人には少なくありませんでした。サイコパスで、人に暴力を振るったり、交通機関の料金をごまかしたりする人はいますが、サイコパスでなくてもする人はするでしょうし、そうした行為をしたからといってサイコパスであるとは言えないのは、もちろんのことです。「人の物を勝手に使う人」というイメージもサイコパスにはあるようす。これも、サイコパスの性質としては、遠からずとも、当たらず、といったところでしょう。サイコパスを、「人には理解出来ない行動を起こす人」と考えている人も少なくありませんでした。自分が理解できないと思った人について、サイコパスというレッテルを貼っているようにも見えるので、正しい知識を広めていく必要があると思いました。「感情よりも論理に従う人」、「人の死に対して興味を持つ人」、「二重人格な人」といったように、本来のサイコパスとは異なる性質を述べている回答も多かったものです。

この研究を行ったゼミ生の代では、1年近くをかけてサイコパス関連の書籍、資料などを輪読しており、ゼミ生も相応にサイコパスについての理解を深めていました。それだけに、学問的な定義と、一般の人たちの感覚との乖離が相当に大きいことに、改めて驚きました。犯罪心理学に関連する用語には様々なものがありますが、正確な知識や理解の普及に努めることも、専門家の重要な役割なのだと感じました。(森 丈弓)

学会注:掲載にあたっては、執筆者と卒論執筆者である卒業生の方の同意を得ています。

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